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リチウム・レドックスフロー・ナトリウムイオン : ネットゼロにむけ、電力網の基盤を強化する

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2026-04-10
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世界のエネルギー貯蔵に関する議論の中心は依然としてリチウムイオン電池です。
電力網上で発生した余剰電力を蓄える技術として、世界中の多くの大規模蓄電プロジェクトがリチウムイオン電池を採用しています。

リチウムイオン電池は、電気自動車(EV)産業における生産能力の大幅な拡大の恩恵を受け(現在、EV向け年間需要は定置用蓄電池向け需要と比べ約4倍)その結果、過去10年間で著しい性能向上とコスト削減が実現されました。

一方でエネルギー転換が進むにつれて、長時間にわたる需要増加や供給不足に対応できる新たな電池技術、すなわち長時間蓄電(LDES)への注目が高まっています。

オーストラリア、ビクトリア州、メルボルン郊外のRangebank 蓄電所

LDES需要とリチウムイオン電池

リチウムイオン電池には用途ごとに最適化された数種類のタイプがあります。

リン酸鉄リチウム(LFP)電池は、定置用蓄電市場を支配し、新規の系統用蓄電プロジェクトの80%以上を占めています。一般的な蓄電時間は最大で約8時間です。

一方、ニッケル・マンガン・コバルト(NMC)電池は、リチウムイオン電池の一種であり、高エネルギー密度で短時間用途に適していますが、主に電気自動車や家電で使用されています。同様に、ニッケル・コバルト・アルミニウム(NCA)電池も、長距離走行型EVで広く利用されています。

 一方で、再生可能エネルギーの多様化を背景とした、LDESへの需要増を受け、近年LFP電池を補完する代替電池技術が注目されています。これらの中には、現在も研究開発が進められている新しい技術もあれば、バナジウムレドックスフロー電池のように数十年前に商用化されていながら、これまで十分な需要がなくコスト低減に至らなかった技術も含まれます。

 一般にLDESは、8時間以上にわたり電力供給が可能な蓄電システムを指します。現在稼働している初期の大規模蓄電プロジェクトは1〜2時間程度の容量で導入されていましたが、現在建設されているプロジェクトでは4時間が標準となりつつあります。

短時間の蓄電池は日々の需要ピークへの対応や再エネの出力変動の平滑化に寄与する一方で、LDESは昼間の太陽光発電を夜間にシフトしたり、数日間にわたって日照や風が不足する状況に対応したりする役割を果たします。

あらゆる蓄電技術は、既存の電力インフラからより大きな価値を引き出すことを可能にし、新たな送電網整備の負担を軽減します。

世界的に高まる蓄電需要

再生可能エネルギーの安定化に向けた蓄電需要は疑いの余地がありません。オーストラリア・エネルギー市場運営者(AEMO)の「 2026年統合システム計画(ドラフト) 」によると、オーストラリアでは2025年6月までの2年間で6.6GWの再生可能エネルギーおよび蓄電プロジェクトがフル稼働に到達しており、前年比で倍増しています。また、オーストラリア国内で2030年までに必要な蓄電容量は27GW、2050年のネットゼロ達成には33GWが必要と試算されています1 。これらの目標には、短時間(0〜4時間)、中時間(4〜12時間)、長時間(数週間〜数か月)といった多様な蓄電が含まれています。同様の傾向は世界各地でも見られます。国際エネルギー機関(IEA)の最新の「世界エネルギー見通し」によれば、2024年の世界の蓄電導入量は77GWに達し、電池価格は20%下落しました。これは「2017年以来最大の年間下落幅」であり、リチウム、ニッケル、コバルト、黒鉛といった主要原材料の価格低下が主因とされています。

さらにIEAは、2050年までにネットゼロを達成するためには、世界の蓄電容量を2,900GWまで拡大する必要があると指摘しています。こうした背景から、リチウムイオン電池の需要は今後も堅調に推移し、系統用蓄電市場において重要な位置を占め続けると考えられます。

長時間蓄電への取り組みと新技術

LDESへの需要の高まりを受け、EkuEnergyでは長時間蓄電プロジェクトにも注力しています。例えば、100MW/800MWhのGriffith蓄電プロジェクトでは、8時間の蓄電容量を備えています。

一方で、オーストラリアおよび世界の電力網では、電化の進展と再生可能エネルギーの拡大に伴い、さらに長時間の蓄電が可能な新しい電池技術への関心が高まっています。

これらの技術の中には、大規模プロジェクトをより低コストで実現できる可能性や、安全性の向上といった利点を持つものもあります。以下では、主要な候補を紹介します。

ナトリウムイオン電池

ナトリウムイオン電池は、安価で豊富に存在する塩(ナトリウム)を使用します。現在は実証段階から初期商用化段階にありますが、リチウムと同じアルカリ金属に属するため「化学的な近縁関係」にあります。

このため、ナトリウムイオン電池は、既存のLFP電池の製造設備や工場を活用して生産できる場合が多く、新たに大規模工場を立ち上げる必要がないという利点があります。

ナトリウムは主にソーダ灰(炭酸ナトリウム)や工業用塩(塩化ナトリウム)から供給されます。ソーダ灰は天然のトロナ鉱石から採掘されるほか、合成によっても生産されます。また工業用塩は、海水の蒸発、海水淡水化、岩塩採掘などから得られます。

ナトリウムが豊富に存在することから、リチウムに比べて供給リスクが低く、将来的にはLFP電池よりも大幅に低コストでの製造が可能となる潜在性があります。

さらに、LFP電池は完全放電すると劣化するため、輸送時には約30%の充電状態を保つ必要がありますが、ナトリウムイオン電池は0%の状態で輸送することが可能です。また、一部のナトリウムイオン電池は高温・低温環境下でも性能を維持しやすく、温度管理にかかるエネルギーやメンテナンスコストの低減が期待されます。

一方で、ナトリウムイオン電池はエネルギー密度が低いため、同じ出力を得るにはより大きな設置スペースが必要です。標準的なコンテナ1基あたりの容量は約2.3〜3.0MWhであり、LFP電池の5.4〜6.4MWhと比較すると小さくなります。

Wood Mackenzieによれば、ナトリウムイオン電池の価格はリチウムイオン電池よりもやや速いペースで低下するものの、価格が同等になるのは2035年頃と予測されています3.

バナジウムレドックスフロー電池

リチウムイオン電池では容量と出力が一体化していますが、バナジウムレドックスフロー電池ではこれらを分離して設計することができます。

リチウムイオン電池では、固体材料中に蓄えられるエネルギー量が容量を決定し、リチウムイオンが正極と負極の間を移動することで充放電が行われます。

一方、バナジウムレドックスフロー電池では、エネルギーは液体電解質として外部タンクに蓄えられ、これをポンプで循環させて電池セル内で酸化還元反応を起こすことでエネルギーを出し入れします。

容量を増やしたい場合はタンクを大型化し、出力を増やしたい場合はセルを追加することが可能です。この特性により、蓄電時間を延ばす際の追加コストが従来の電池よりも低く抑えられるため、長時間蓄電用途において魅力的な選択肢となっています。

また、オーストラリアは世界有数のバナジウム資源を有しており、この分野で優位性を持っています。

空気鉄電池

鉄空気電池は、鉄・水・空気を利用した技術で、「酸化・還元反応」に基づいて動作します。

リチウムイオン電池が密閉型であるのに対し、空気鉄電池は空気と反応する「呼吸する電池」とも言えます。放電時には空気中の酸素を取り込み、鉄と反応して錆を生成しながらエネルギーを放出します。充電時には電流を流してこの錆を再び鉄に戻し、酸素を放出します。

この技術は最大で約100時間の連続放電が可能であり、数日間にわたる再エネ供給不足を補う用途に適しています。

コスト面でも優位性があり、鉄はリチウムやコバルトと比べて安価で豊富に存在します。また、水ベースで可燃性のない電解質を使用するため、大規模導入における安全性も高いとされています。

一方で、ナトリウムイオン電池と同様にエネルギー密度は低く、設置面積が大きくなるという課題があります。しかし、数日単位の信頼性を提供できる点で、再生可能エネルギー主体の電力網において重要な役割を果たす可能性があります。

まとめ:リチウムを中心に、多様な技術の組み合わせへ

リチウムイオン電池は、現在のプロジェクト群において依然として中核的な役割を担っています。

しかし、エネルギー転換の加速に伴い、複数の電池化学を組み合わせ、それぞれのプロジェクトに最適な技術を選択することが重要になっています。

こうした取り組みによって、石炭火力発電所の段階的な廃止に向け、電力網により大きな柔軟性と選択肢をもたらすことが可能になります。